2015年4月22日 更新

【ごはん映画】ラーメンの正しい食べ方とは?破天荒なグルメ映画『タンポポ』

『タンポポ』――1985年に公開された本作は、バブル期の社会を活写した名監督、伊丹十三が手掛ける売れないラーメン屋の立て直す物語!あのたいめんけんの「タンポポオムライス」の原点になった映画です。

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突然ですが、「どうしても忘れられない映画のワンシーンは?」と聞かれたら、皆さんはなんと答えるでしょうか。

例えば映画史に燦然と輝く大ヒット作『タイタニック』。ケイト・ウィンスレット演じるローズが舟首で両手を大きく横に広げ、それをレオナルド・ディカプオ扮するジャックが後ろから支えるという有名なシーンを挙げる方も多いでしょう。それから“泣ける映画ランキング”といったようなもので必ず上位に選出される『ニュー・シネマ・パラダイス』。本編のラスト、さまざまな映画のキスシーンばかりを繋げたフィルムをトトが目にする場面も感動的ですね。エンニオ・モリコーネの美しい旋律と相まって、観る者の胸をきゅっと締め付けます。クラシック映画好きなら、チャップリンの不朽の名作『独裁者』におけるパワフルな演説シーン(最近だと、綾野剛さんが出演するCMで、その中の名文句である「Fight for Liberty」が使われたことでも知られます)を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

のっけから余談が長くなってしまいましたが、今回“ごはん映画”としてピックアップした『タンポポ』(’85)にも、そうした人の記憶に深く刻まれるであろう衝撃的なワンシーンが含まれています。その内容については後ほど触れるとして、まずは作品をご覧になっていない方のために駆け足で作品紹介をさせていただきましょう。
本作を監督したのは故・伊丹十三。若い方ですと、名前を聞いてもピンと来ないかもしれません。彼はバブル期の社会を活写した名監督の一人。国税局査察部の女捜査官と脱税者の攻防を描いた『マルサの女』(’87)、ヤクザの民事介入暴力に焦点を当てた『ミンボーの女』(’92)などの話題作でメガホンを取りました。時代を反映したテーマ、軽快なテンポ、メッセージ性に富んだストーリー、そして必ずといっていいほどのお色気シーンを交えて、笑いと涙を誘いつつ、“映画はエンターテイメントである”ということを一本のフィルムに凝縮した才人です。

そんな伊丹監督は類いまれなる美食家でもあり、この『タンポポ』は1980年代に注目を集めた「荻窪ラーメン」をモデルにして作られました。具体的には、かつての料理番組『愛川欽也の探検レストラン』で取り上げられた荻窪のラーメン屋「佐久信」のストーリーが本作の題材となっています。
その“ストーリー”とは、売れないラーメン屋の立て直し。ある日、長距離トラックの運転手のゴロー(山崎努)とガン(渡辺謙)が一軒のラーメン屋の暖簾をくぐります。そこにいるのは女主人のタンポポ(宮本信子)。死んだ夫に成り代わって店を切り盛りしていますが、そのラーメンはお世辞にもおいしいとは言えない代物です。ちょうど店には図体の大きいビスケン(安岡力也)という男がのさばっていて、ゴローは彼と乱闘し、傷を負います。タンポポはゴローを介抱しながら、店の窮状をゴローに打ち明ける――。夫の死後、タンポポは自己流でラーメンを作っていて、店には毎日のように閑古鳥が鳴いていたのでした。店をなんとか再建したい。そんなタンポポの切なる想いを汲み、ゴローはタンポポの店を町一番のラーメン屋にするべく立ち上がります。そして紆余曲折を経て、タンポポの店は行列のできるラーメン屋に生まれ変わるのです。

私が考える本作の見どころは、そのストーリーもさることながら、伊丹監督の食に対する思い入れとシニカルな視点を感じさせる“構成の妙”。<タンポポのラーメン修行>という本筋と並行して、そこには本筋と関係のない小話がいくつも挿入されていきます(クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』を想像していただくとわかりやすいでしょうか)。これらがなんとも破天荒でおもしろい! 私が本作に初めて出合ったのは小学生の頃でしたが、その一場面は30年経ったいまでも鮮明に脳裏に焼き付いています。また、この映画がきっかけで有名になったグルメもあるので、そんなエピソードのいくつかを以下にピックアップしておきましょう。
1.ラーメンの正しい食べ方
ラーメン歴40年の“センセイ”(加藤嘉)がラーメンの食べ方をガン(渡辺謙)に指南します。そこにはまるで茶道のお点前のごとき美的秩序があって、なんとも滑稽でほほえましい。例えばこんな具合です。

ガン:先生、最初はスープからでしょうか。麺からでしょうか。

センセイ:最初はまず、ラーメンをよく見ます。

ガン:は、はい。

センセイ:どんぶりの全容を、ラーメンの湯気を吸いこみながら、しみじみ観賞してください。スープの表面にキラキラと浮かぶ無数の油の玉。油に濡れて光るシナチク。早くも黒々と湿り始めた海苔。浮きつ沈みつしている輪切りのネギたち。そして何よりも、これらの具の主役でありながら、ひっそりと控えめにその身を沈めている3枚の焼豚。では、まず箸の先でですね、ラーメンの表面をならすというかなでるというか、そういう動作をしてください。

ガン:これはどういう意味でしょうか。

センセイ:ラーメンに対する愛情の表現です。

昨今、日本のラーメンは外国人に大人気。私もときどき、どうやって食べたらいいのかと質問されることがあります。改めて言うまでもないことですが、正しいラーメンの食べ方など存在しません。スープから飲もうが麺から食べようが本人の自由。スープが冷めないうちに、麺がのびないうちに、「さっさと食べる」が正解だと思います。私はラーメン屋のカウンターに座るたび、パブロフの犬よろしくこのワンシーンを思い出して心ひそかに失笑しています。
2.スパゲティの正しい食べ方
マナー教室の女講師(岡田茉莉子)がレストランで生徒にスパゲティの食べ方を指導します。スプーンとフォークを使って、音を立てずに食べましょうと説明する傍で、マナーを無視し、ズズズズズッと大きな音を出しながらスパゲティを啜る外国人がいる。その対比がこれまた滑稽なのですが、それはさておき、スパゲティの本場であるイタリアでは、スパゲティを食べる際にフォークのみを使うのが一般的だというのはご存じの方も多いかと思います。では、なぜ日本ではスプーンが使われているのか? 一説では、ナポリタンの影響だとされています。ご存じのようにナポリタンは日本で独自に開発されたスパゲティ。ケチャップで味付けされたそれは、上手に食べないとソースが飛んでシミになる。それを回避するために、フォークと共にスプーンが用いられるようになった、と言われています。
3.タンポポオムライス
日本橋にある洋食の老舗「たいめいけん」の名物にタンポポオムライスというメニューがあります。皿に盛ったチキンライスの上に中がふわとろのプレーンオムレツを乗せ、表面に切れ目を入れて全体を包み込むように開いたスタイルのもの。その名前からのおわかりのように、このメニューの原点は本作。伊丹監督が考案したものを「たいめいけん」がメニュー化したのです。

このほかにも男女が生卵を何度も口移しでやり合ったり、店中の品物を触ってはその感触を楽しむ老婆、危篤の妻にチャーハンを作らせる男が登場したりと、本作には突っ込み甲斐のある要素がてんこ盛りです。それらはエンターテイメントとして純粋に笑って楽しめばよいのですが、伊丹監督が本作で何を伝えたかったかといえば、それはエンドロールの背景が物語っているような気がしています。素人風の女性が赤ちゃんに授乳している映像で、恐らく彼は、食とは生きるための手段であり、食べるとは本能であるということを伝えたかったのではないかと。“食”を目の前にして人はどんな行動に出るのか。そんな人間観察を鮮烈な映像で炙り出した。ひとつひとつのエピソードにはさほど脈絡はないけれど、観終わってみるとそんな想いが頭の中にすっとまとまっている。なんだかラーメンの丼の中に広がる世界のようだな、としみじみ思わされた次第です。

(甘利美緒)
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  ¥4,700+税
  発売・販売元:東宝
  ©伊丹プロダクション
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ビデリシャス編集部 ビデリシャス編集部