2015年5月28日 更新

【ごはん映画】小豆に懸ける思いと生きていくことの意味とは

第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門オープニングフィルム正式決定作品『あん』”やり残したことは、ありませんか?” 小さなどら焼き屋を舞台に人生とは何かを問いかける。小豆を通して語られる魂のストーリー。5/30(土)全国公開です。

 (4154)

先日、世界の三大映画祭のひとつであるカンヌ国際映画祭が開催されたことはご存じの方も多いかと思います。第68回目を迎えた今回は、新作と旧作を合せて7本もの日本映画の長編が上映されました。その中で、「ある視点」部門のオープニングに公式上映された『あん』が、いよいよ5月30日に公開されます。

本作は、ドリアン助川氏の同名小説「あん」を河瀬直美監督が映画化したもの。河瀬監督といえば、先に挙げたカンヌ国際映画祭で、過去にカメラドール(新人監督賞)や審査員特別大賞グランプリを獲得するなど、国際的に高く評価される映像作家の一人。“命”というテーマと真摯に向き合い、ドキュメンタリー風の映像を丁寧に紡いでいく作風で知られています。この『あん』においても、その世界観は健在。穏やかながら鮮烈に“生きていく意味”を問い掛けています。

それでは、ストーリーをご紹介しましょう。

舞台は満開の桜並木の中にぽつんと佇むどら焼き屋「どら春」。日がな一日鉄板に向かってどら焼きを焼く千太郎(永瀬正敏)の前に、ある日、一人の老女がふらりと現れます。彼女の名前は徳江(樹木希林)。求人募集の張り紙を見てやってきたと徳江は言いますが、その風貌は雇うにはあまりにも年老いたもので、千太郎はその願いを退けます。しかし、徳江はあきらめません。後日、また風のようにやってきて働かせてほしいと懇願し、そして千太郎の作ったどら焼きをこう評します。

「作った人の気持ちが感じられない“あん”だった」

そして、「これ、ちょっと食べてみて」と自分の作った“あん”を千太郎に渡して去っていきます。最初はその“あん”をゴミ箱へ投げ入れる千太郎でしたが、気を取り直して口にしてみることに。すると、それは想定外の極上の味。千太郎は徳江にどら焼きの粒あんづくりを任せることにします。店はみるみるうちに繁盛していくのですが、そんな折、ひとつの心ない噂が立って、「どら春」に逆風が吹き始めます。その噂とは、徳江がらい病(ハンセン病)であるということ。らい病は、治る病気でありながら、隔離政策などによって人々の間に“怖い病気”として定着していました。そのため、いつしか客足は遠のき、千太郎は徳江を辞めさせなければならなくなります。徳江はおとなしく店を去りますが、千太郎は徳江のことが気がかりでなりません。そこで「どら春」の常連客であり、徳江と心を通わせていた中学生のワカナ(内田伽羅)と、徳江の足跡をたどっていきます。そして二人は、徳江が、偏見の中に人生を閉じ込められていたと知ることになるのです……。

とにかく素晴らしかったのは樹木希林さんの演技。原作を手掛けたドリアン助川氏は、樹木さんを想像して徳江を描いたようですが、壮絶な人生を歩んできた老女を自然に、かつ圧倒的な存在感で演じ切っています。その中で、“ごはん映画”的に注目したいのは、樹木さん扮する徳江が粒あんを作るシーン。彼女は小豆をそれはそれは愛おしいものとして扱います。小豆を水に浸し、ぐらぐらと火にかける。その際、「小豆はせっかく畑から来てくれたのだから、おもてなしをしなければ」「がんばって」と声をかけます。なぜなら「すべてには言葉がある」から。この世の中にあるすべてには、“生かされている意味”があると徳江は考えているからです。

「私達はこの世を見るために、聞くために、生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私達には生きる意味があるのよ」

と彼女は言います。恐らく、これはらい病にかかり、言われなき差別によって、閉ざされた“壁”の向こうで生活せざるを得なかった徳江の心からの叫び。世間を見ること、聞くことができなかった彼女は、その分、木々のさざめき、木漏れ日のきらめき、鳥のさえずり、そして小豆が粒あんへと形を変えていく息遣いといったものに想いを致すことができる人だったのでしょう。
先に「作った人の気持ちが感じられない“あん”だった」という徳江の言葉を紹介しました。対象が物言わぬモノであれ、そのモノの言葉にきちんと耳を傾けられる、尊敬の気持ちを持てる人が、すばらしい味を生み出し、食べる人の心を振るわせることができるのかもしれません。

映画の終盤には悲しい出来事が起こりますが、ラストに映し出される千太郎の姿には“生きていく希望”が感じられます。余韻に浸ることは、映画の愉しみの一つ。ぜひ『あん』で、そんな映画体験をしていただけたらと思います。

(甘利美緒)
 (4090)

『あん』
5月30日(土)全国公開
©2015 映画『あん』製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE
配給: エレファントハウス
6 件

関連する記事 こんな記事も人気です♪

レンジで簡単!お家で本格ポップコーンが楽しめるポップコーンメーカー

映画館に行くと甘い香りが漂っていて、つい食べたくなってしまうポップコーン。外出先でなくても、お家でもポップコーンは作ることができます。「弾ける勢いが良過ぎて怖くないの?」そんなことはありません。自宅でできるポップコーンポッパーを是非お試しあれ!

ポップコーンにケーキ、おいしいお菓子の準備ができたら上映開始!夜の手作り映画祭

【動画】ふわりと風が吹いて心地の良い夏の夜、普段なかなかできないちょっとスペシャルな楽しいナイトタイムのご提案。お気に入りの映画とおいしいお菓子、 “白い布" を用意したら手作り映画祭のスタートです!

冷凍するから作り置きOK!細切れ時間でできる話題のキューバサンドのつくり方

外はカラッとカリカリ!中はハーブ風味のお肉がジューシー!キューバサンドのレシピ。空いた時間で作り置き冷凍して、食べたい時にトースターでそのままあたためるだけ♪ ホイルで包んで冷凍するから、挟む手間やホットサンド器不要&焦げにくい♪

澄んだ琥珀色のコンソメスープが一際美味しく見える『スープ・オペラ』

【ごはん映画】ある古びた一軒家で食事の支度がはじまっている。鍋からはふつふつと、鶏がらスープのいい匂いが漂ってくる。このスープ、近所の肉屋「吾妻屋」の主人がいつもたっぷりと肉の付いた鶏がらを分けてくれるので、ほとんどお金はかかってない。ルイは叔母のトバちゃんと二人暮らし。

あなたを発酵させる。芳醇な香りのパンと妄想のその先には『ボヴァリー夫人とパン屋』

【ごはん映画】ノルマンディーの美しい村。ボヴァリー夫人は、マルタンの作るやさしくて芳醇な香りのパンを愛し、マルタンは小説さながらの“彼女の恋”を覗き見するー

キーワード

ライター

ビデリシャス編集部 ビデリシャス編集部