2015年4月13日 更新

【ごはん映画】世界中の食通を唸らせてきた伝説の鮨職人のドキュメンタリー『二郎は鮨の夢を見る』

【コラム】"食"にまつわる映画を紹介する「ごはん映画」の連載、今回は『二郎は鮨の夢を見る』。『ミシュランガイド東京』にて6年連続で三ツ星に輝き、世界中の食通を唸らせてきた伝説の鮨職人、「すきやばし次郎」の初代店主・小野二郎さんのドキュメンタリーです。日本に生まれたことをちょっと誇らしく思える映画です。

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食がストーリーを支える名作映画はいくつかあります。例えば筆者にとっては伊丹十三監督の『タンポポ』。ラーメン歴40年の老人が渡辺謙扮する長距離トラックの運転手にラーメンの食べ方についてくそまじめに講釈するシーンは強烈で、子供の頃に観たにも関わらず、いまだ鮮明に思い出すことができます。それから、小林聡美、片桐はいり、もたいまさこが出演した『かもめ食堂』。揚げたてのトンカツがサクッサクッと切られていく場面は名シーン。あれに胃袋をわしづかみにされた人は多いのではないでしょうか。『おくりびと』で山崎努が焼き白子をほおばるところもすばらしかった!さすがは名優。金網で炙って塩だけを振った白子がなんとおいしそうに見えたことでしょう。

前置きが長くなってしまいましたが、そもそもが食いしん坊で、映画と食の関係に心を奪われることが多いような人間からすると、2011年に公開されたドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』は見逃せない一本です。

主役は鮨店「すきやばし次郎」の初代店主・小野二郎、85歳(製作当時)。『ミシュランガイド東京』にて6年連続で三ツ星に輝き、「世界最高の料理人」とされるフレンチの巨匠、ジョエル・ロブションをはじめ世界中の食通を唸らせてきた伝説の鮨職人。昨年、来日したオバマ大統領と安倍晋三首相が共に「すきやばし次郎」を訪ね、二郎氏の鮨を味わったことは記憶に新しいですね。

本作は、二郎氏を中心に、親子であり師弟でもある二人の息子、そして料理評論家の山本益博氏や、「すきやばし次郎」で研鑽を積んだ「鮨 水谷」の水谷八郎氏など二郎氏と縁のある人物のインタビューで構成されています。

筆者が特に魅せられのは「手」の映像。鮨屋のカウンターに座る愉しみの一つとして、カウンター越しに鮨職人の熟練した手さばきを眺めることがあります。カメラはときとして二郎氏の顔ではなく、彼の手を長回しで映しつづけます。手が飯台に伸びてシャリを取り、握って、ネタをのせ、刷毛で煮切りをひと塗りする…。その一連の動きを僅かでも逃さないように映像にはスローモーションが多用され、さらにはBGMとしてチャイコフスキーやバッハ、モーツァルトの旋律が奏でられます。そうした演出のもと、二郎氏の手から器に置かれた鮨には「優美」という言葉がふさわしいものと感じ、恐る恐る画面に向かって手を伸ばしたい衝動に駆られます。

劇中では「すきやばし次郎」の鮨が、なぜおいしいのかについても語られています。言ってみれば、鮨というものは、シャリの上にネタがのっているだけという極めてシンプルな食べ物。シンプルであるがゆえに、素材の選び方、ネタの捌き方、シャリの温度に至るまで、匠の技が最大限に活かされることになるのです。印象深いのは、「すきやばし次郎」が信頼を寄せる築地市場の仲卸、フジタ水産の担当者がマグロの競りに挑むシーンです。まずはマグロの肉を一本ずつ指の腹で確かめ、懐中電灯で照らして鮮度を見ていくのですが、競りにかかるマグロは床を埋め尽くすほどの半端ない数。その中で、フジタ水産の担当者によれば、10本中いいものは一本のみらしいのです。そして、彼は「それを競り落とす」と断言します。
そのマグロが店に届けられたら、今度は鮨職人の腕の見せ所。どの店も大トロがおいしいのは当たり前で、赤身と中トロをおいしく提供するのが技だと、二郎氏と長男の禎一氏は語っています。モノに応じた日数を寝かせて、指の触感と自らの舌で食べ頃を見極めるそうです。また、タコは客が口に入れたときにもっとも柔らかく味わえるように、提供するタイミングを逆算して茹でていきます。「鮨は一瞬の勝負」。まさに一期一会の食体験と納得させられます。

ところで、江戸時代の後期、鮨はファーストフードでした。“おいしいものを手早く食べたい”というせっかちな江戸っ子気質を反映して、屋台で売られていたそうです。それが時を経て、’80年代には海の向こうのアメリカで、カリフォルニアロールという形でブームになり、鮨という食文化はいつしかヨーロッパにも伝わって、現在では日本の鮨職人たちがパリやロンドンへ進出を果たしています。
日本の食文化である鮨は海を渡り、この『二郎は鮨の夢を見る』をデヴィッド・ゲルプというアメリカ人が監督して、全米で興行収入250万ドル超という異例のヒットを果たしたのは非常に感慨深いと思いませんか? この作品を通して、「鮨」という食文化を持つ日本に生まれたことをきっと誇らしく思えるはずですよ。

(甘利美緒)
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発売・販売元:アミューズソフト
税込価格:3990円
(C) :2011 Sushi Movie,LLC
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ビデリシャス編集部 ビデリシャス編集部