突然ですが、あなたは誰かのために料理を作るとき、何を想うでしょう。私なら、それを口にする人の笑顔を想像します。例えば、相手が連日の激務でヘトヘトになっているようなときは豚のしょうが焼きなどを。技巧を凝らした料理よりシンプルな定番料理のほうが時として人をふわりと優しい気持ちにする、と信じ込んでいるからです。
今回ご紹介する“ごはん映画”『大統領の料理人』の主人公・オルタンスもそうした考えを持った人物のようです。
2012年公開の本作は、フランスの大統領官邸史上初の女性料理人として、1980年代に2年間、フランソワ・ミッテラン大統領に仕えた女性シェフ、ダニエル・デルプシュの実話に基づいた物語。ひょんなことから大統領のプライベートキッチンを任されることになったオルタンス(カトリーヌ・フロ)が型破りな豪快さと絶品料理でお堅い官邸の常識を次々と覆し、大統領(ジャン・ドルメッソン)の心を動かしていきます。
オルタンスが作るのは、過剰な装飾を排除し、素材の持ち味を大切にした料理。「キャベツのファルシ」(縮緬キャベツの葉とサーモンの薄切りをミルフィーユ状に重ねた料理)、「美しきオーロラの枕」(鴨やフォアグラなどの食材をサクサクしたパイ生地で包んだもの)、「サントノレのおばあちゃん風」(カラメリゼしたプチシューとなめらかなクリーム、軽いパイ生地で構成したスイーツ。サントノレといえば、ピエール・エルメのものが有名ですね)などフランスの家庭料理の流れを汲んだものばかりです。これによって、フォーマルで、デコレーションの多いフランス料理に飽き飽きしていた大統領の心を掴む、というわけですね。
今回ご紹介する“ごはん映画”『大統領の料理人』の主人公・オルタンスもそうした考えを持った人物のようです。
2012年公開の本作は、フランスの大統領官邸史上初の女性料理人として、1980年代に2年間、フランソワ・ミッテラン大統領に仕えた女性シェフ、ダニエル・デルプシュの実話に基づいた物語。ひょんなことから大統領のプライベートキッチンを任されることになったオルタンス(カトリーヌ・フロ)が型破りな豪快さと絶品料理でお堅い官邸の常識を次々と覆し、大統領(ジャン・ドルメッソン)の心を動かしていきます。
オルタンスが作るのは、過剰な装飾を排除し、素材の持ち味を大切にした料理。「キャベツのファルシ」(縮緬キャベツの葉とサーモンの薄切りをミルフィーユ状に重ねた料理)、「美しきオーロラの枕」(鴨やフォアグラなどの食材をサクサクしたパイ生地で包んだもの)、「サントノレのおばあちゃん風」(カラメリゼしたプチシューとなめらかなクリーム、軽いパイ生地で構成したスイーツ。サントノレといえば、ピエール・エルメのものが有名ですね)などフランスの家庭料理の流れを汲んだものばかりです。これによって、フォーマルで、デコレーションの多いフランス料理に飽き飽きしていた大統領の心を掴む、というわけですね。
via youtu.be
ちなみに、劇中の料理を手掛けたのはジェラール・ベッソンとギー・ルゲ。前者は、弱冠28歳でM.O.F(フランスの国家最優秀職人章のことで、フランス文化の最も優れた継承者たるにふさわしい高度な技術を持つ職人に授与されます)を受賞し、パリにある二つ星の名店でシェフを務めた腕利き。後者は、伝統的なフランス料理を大衆化させたリーダー的存在のオーギュスト・エスコフィエの最後の孫弟子で、オテル・リッツ・パリのヘッド・シェフを経験した人物です。そんな人間国宝的な2人が織りなす料理をいっそう魅力的に見せるべく、雑誌『ELLE』のフードスタイリストでもあるエリザベス・スコットが監修。調理中の音など細部にもこだわったというのですから、観る者が胃袋を掴まれないはずがありません。
ところで、私が特に印象深く記憶しているのが、オルタンスがいかにして大統領の食の好みを探るか。大統領は多忙ゆえ、直接話を聞くことはおろか、事前に食べたい食材や献立についての情報も下りてきません。そこで彼女は給仕人が下げてくる皿を見て、大統領がすべて食べたか、残したかを確認。残した場合は、それが何かをつぶさに読み取って、次回の献立に役立てていきます。料理における皿とは、まさに作り手と食べ手とのキャッチボールの手段。そんなことを感じさせてくれます。
ところで、私が特に印象深く記憶しているのが、オルタンスがいかにして大統領の食の好みを探るか。大統領は多忙ゆえ、直接話を聞くことはおろか、事前に食べたい食材や献立についての情報も下りてきません。そこで彼女は給仕人が下げてくる皿を見て、大統領がすべて食べたか、残したかを確認。残した場合は、それが何かをつぶさに読み取って、次回の献立に役立てていきます。料理における皿とは、まさに作り手と食べ手とのキャッチボールの手段。そんなことを感じさせてくれます。
また、オルタンスの努力が実って、大統領が夜中に人知れず、彼女のキッチンを訪ねてくる場面も非常に興味深いですね。オルタンスが大統領のために初物の黒トリュフをたっぷりのせたタルティーヌを作り、「シャトー・ラヤヌ1969」(シャトー・ラヤヌといえば、ローヌの神様 ジャック・レイノーが手掛ける伝説の逸品です)でもてなすのですが、そこで大統領はオルタンスに「逆境は“人生のトウガラシ”。逆境だからがんばれるのだ」と言葉をかけます。これは大統領からの励ましのメッセージ。オルタンスが従来のルールに沿わないやり方で料理することを好ましく思わない官僚たちから、次第に彼女は料理に用いる食材を制限されていくのですが、恐らく大統領は、彼女が作る皿からその事情を察したのでしょう。先ほど皿は作り手と食べ手とのキャッチボールであるというような話をしましたが、ここでは、作り手が投げたボールを食べ手が投げ返したのです。料理とは、味だけでなく、それを作る人の気持ちをも饒舌に語りかけるものなのかもしれませんね。
そうそう。最後にミッテラン大統領の故郷であるロワール地方の優れたワインがいろいろ取り上げられていたので、以下にピックアップしておきます。映画と併せて、ぜひチェックしてみてくださいね。
そうそう。最後にミッテラン大統領の故郷であるロワール地方の優れたワインがいろいろ取り上げられていたので、以下にピックアップしておきます。映画と併せて、ぜひチェックしてみてくださいね。
●「ユエのヴーヴレイ」
ドメーヌ・ユエは、あのロバート・パーカー(ワイン評論家)が5つ星を付けた造り手。ブドウ品種はシュナン・ブラン。
●「ダグノーのシレックス」
プイィ・フュメの奇才、ディディエ・ダグノーのフラッグシップワイン。ソーヴィニヨン・ブランを用いた白ワイン。
●「クーレ・ド・セラン」
造り手は、ビオデナミの第一人者であるニコラ・ジョリー。ロワール河北岸のサヴニエール地区で収穫されたシュナン・ブランを使用しています。
●「フコーのクロ・ルジャール」
ロワールのカベルネ・フランから気品あふれる赤ワインを造る生産者、フコー兄弟。クロ・ルジャールは「世界最高のカベルネ・フラン」との呼び声も高い逸品です。
(甘利美緒)
ドメーヌ・ユエは、あのロバート・パーカー(ワイン評論家)が5つ星を付けた造り手。ブドウ品種はシュナン・ブラン。
●「ダグノーのシレックス」
プイィ・フュメの奇才、ディディエ・ダグノーのフラッグシップワイン。ソーヴィニヨン・ブランを用いた白ワイン。
●「クーレ・ド・セラン」
造り手は、ビオデナミの第一人者であるニコラ・ジョリー。ロワール河北岸のサヴニエール地区で収穫されたシュナン・ブランを使用しています。
●「フコーのクロ・ルジャール」
ロワールのカベルネ・フランから気品あふれる赤ワインを造る生産者、フコー兄弟。クロ・ルジャールは「世界最高のカベルネ・フラン」との呼び声も高い逸品です。
(甘利美緒)
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発売元:ギャガ
販売元:ポニーキャニオン
価 格:DVD¥3,800(本体)+税、Blu-ray¥4,700(本体)+税
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