彼の名前を筆者が初めて耳にしたのは、数年前に恵比寿のオーセンティックバー「オーディン」を取材していたときのこと。そこはお酒もさることながらお料理がおいしいことでも知られ、肉も野菜も果物も、店で使う食材の大半は無農薬有機栽培によるものを全国から厳選しているという話でした。
「ちょっとこれを食べてみてください」
そう言ってマスターが差し出してきたのは蜜がぎっしり詰まったリンゴ。勧められるままに口へ運んでみるとびっくりするほど甘く感じられました。恐らく私の頬はだらしなく緩んでいたのでしょう。マスターは満足そうな笑みを浮かべて、「食べてみればわかりますよね。木村秋則さんが自然栽培で作ったリンゴには底知れぬパワーがあるんです」と話してくれました。
木村秋則さん。青森県のリンゴ農家の方で、絶対に不可能とされていたリンゴの無農薬・無施肥栽培に世界で初めて成功した人物です。今回ピックアップした映画『奇跡のリンゴ』は、その木村さんをモデルにした物語。劇中では彼の十数年に及ぶ苦難の日々が綴られています。
興味を惹かれたのは、リンゴの木に散布する農薬をどうするかで主人公・秋則(阿部サダヲ)が試行錯誤するシーン。そもそも彼が自然農法を志したのは妻の美栄子(菅野美穂)がきっかけです。彼女は農薬に過敏で、年に十数回も散布する農薬にそのカラダを蝕まれていました。「“安全なリンゴを作ること”と“安全にリンゴを作ること”は違う」というナレーションの言葉が、まさにそれを的確に表しています。
「ちょっとこれを食べてみてください」
そう言ってマスターが差し出してきたのは蜜がぎっしり詰まったリンゴ。勧められるままに口へ運んでみるとびっくりするほど甘く感じられました。恐らく私の頬はだらしなく緩んでいたのでしょう。マスターは満足そうな笑みを浮かべて、「食べてみればわかりますよね。木村秋則さんが自然栽培で作ったリンゴには底知れぬパワーがあるんです」と話してくれました。
木村秋則さん。青森県のリンゴ農家の方で、絶対に不可能とされていたリンゴの無農薬・無施肥栽培に世界で初めて成功した人物です。今回ピックアップした映画『奇跡のリンゴ』は、その木村さんをモデルにした物語。劇中では彼の十数年に及ぶ苦難の日々が綴られています。
興味を惹かれたのは、リンゴの木に散布する農薬をどうするかで主人公・秋則(阿部サダヲ)が試行錯誤するシーン。そもそも彼が自然農法を志したのは妻の美栄子(菅野美穂)がきっかけです。彼女は農薬に過敏で、年に十数回も散布する農薬にそのカラダを蝕まれていました。「“安全なリンゴを作ること”と“安全にリンゴを作ること”は違う」というナレーションの言葉が、まさにそれを的確に表しています。
via www.youtube.com
秋則は美栄子のために、美栄子の父・征治(山崎努)の援助を受けて、無農薬でリンゴを栽培する決意をします。居酒屋で刺身をつまみながらワサビの殺菌作用に気が付き、リンゴの木にワサビを散布します。さらに生姜、酢、麦茶、コーヒー、ウイスキー、煮干し、タマネギ、牛乳……ありとあらゆる食材を試験的に用いて農薬の代わりに役立てようとするのですが、どれもこれも上手くいきません。木村家のリンゴ畑は害虫にとっての天国となり、近隣の畑からは文句を言われ、一家は虫を手作業で駆除する仕事に追われます。
何年経っても同じことの繰り返し。害虫は減らず、リンゴの木は花を咲かせるどころか枯れるだけ。借金ばかりが膨らみ、そのうち収入はゼロになって、挙句の果てにリンゴ畑を差し押さえられる羽目に。周囲の者たちからは「竈消し」(東北地方の方言で、竈の火を消すほどの破産者、大ばか者のこと)と揶揄されて、孤立無援の状態に陥ります。
追い込まれた秋則はやがて美栄子に離婚を切り出し、一人で縄を片手に真っ暗な岩木山へと入っていくのですが、死を覚悟したそのとき、1本のクルミの木に遭遇します。その木は、大自然の中で農薬も肥料も与えられていないにもかかわらず、害虫の被害にも遭わず、青々と葉を茂らせ、立派に実を宿していました。その様子を目の当りにして、彼は閃き、そこから奇跡の逆転劇が始まっていくのです。
何年経っても同じことの繰り返し。害虫は減らず、リンゴの木は花を咲かせるどころか枯れるだけ。借金ばかりが膨らみ、そのうち収入はゼロになって、挙句の果てにリンゴ畑を差し押さえられる羽目に。周囲の者たちからは「竈消し」(東北地方の方言で、竈の火を消すほどの破産者、大ばか者のこと)と揶揄されて、孤立無援の状態に陥ります。
追い込まれた秋則はやがて美栄子に離婚を切り出し、一人で縄を片手に真っ暗な岩木山へと入っていくのですが、死を覚悟したそのとき、1本のクルミの木に遭遇します。その木は、大自然の中で農薬も肥料も与えられていないにもかかわらず、害虫の被害にも遭わず、青々と葉を茂らせ、立派に実を宿していました。その様子を目の当りにして、彼は閃き、そこから奇跡の逆転劇が始まっていくのです。
追い込まれた秋則はやがて美栄子に離婚を切り出し、一人で縄を片手に真っ暗な岩木山へと入っていくのですが、死を覚悟したそのとき、1本のクルミの木に遭遇します。その木は、大自然の中で農薬も肥料も与えられていないにもかかわらず、害虫の被害にも遭わず、青々と葉を茂らせ、立派に実を宿していました。その様子を目の当りにして、彼は閃き、そこから奇跡の逆転劇が始まっていくのです。
ところで、この木村秋則さん以外にも、日本には自然栽培に挑む生産者が数多くいらっしゃいます。例えば山梨県北杜市には「ボーペイサージュ」というワイナリーがあって、岡本英史さんという造り手がブドウの栽培から醸造までを手掛けています。化学肥料と除草剤は一切使わず、春先になると、この映画に登場する秋則のように、雑草だらけの畑で虫探しに明け暮れるそうです。そして生まれたワインを筆者は口にしたことがあるのですが、木村さんのリンゴを味わったときのように力強く、どことなく大地の味と香りが感じられました。
もちろん作業効率などを考えると単純に自然農法を美化できない現実もあります。しかし、昨今はトレーサビリティが普及する時代。消費者がみずからの手で食を選ぶ力が問われています。言うまでもなく、人間のカラダは口に入れるものから成り立っている。“安全なリンゴ”を作ろうと弛まぬ努力を重ねた男の物語を通して、食のあり方について考えてみるのもいいかもしれませんね。
(甘利美緒)
ところで、この木村秋則さん以外にも、日本には自然栽培に挑む生産者が数多くいらっしゃいます。例えば山梨県北杜市には「ボーペイサージュ」というワイナリーがあって、岡本英史さんという造り手がブドウの栽培から醸造までを手掛けています。化学肥料と除草剤は一切使わず、春先になると、この映画に登場する秋則のように、雑草だらけの畑で虫探しに明け暮れるそうです。そして生まれたワインを筆者は口にしたことがあるのですが、木村さんのリンゴを味わったときのように力強く、どことなく大地の味と香りが感じられました。
もちろん作業効率などを考えると単純に自然農法を美化できない現実もあります。しかし、昨今はトレーサビリティが普及する時代。消費者がみずからの手で食を選ぶ力が問われています。言うまでもなく、人間のカラダは口に入れるものから成り立っている。“安全なリンゴ”を作ろうと弛まぬ努力を重ねた男の物語を通して、食のあり方について考えてみるのもいいかもしれませんね。
(甘利美緒)
6 件
DVD発売中
¥4700+税
発売 ・ 販売元: 東宝